ショート・コミック 「ああ青春」

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昔々、ある機関紙に投稿し不採用!?になったものかとおもいます(笑)
私小説ながら、慶太と看護婦さんの周辺は、かなり創作してあります(笑)


ああ青春

 慶太は、大学浪人で、近郊に住む家族から離れ、アルバイトをしながら単身アパート暮らし。小心で神経質な彼は、どこといって悪くはないが、いつも病みがち。当人は知らなかったが、薮下医院をたずねたときは、なかば栄養失調状態だった。

 「若いのに、しんどいなんて、これから先どうするんな。盲腸切ってまお、な、元気になるで。早い方がええわ。明日切ってまお、な。」医者の勢いに押され、慶太は二コッと笑って応えるのがやっとだった。

 それは、慶太にとって一大事。手術や入院費用は、親に無心すれば済むが、保険証が友人からの借りもの。バレるまえにバラしてしまえと、その日の夜、謝罪と手術の中止を求めに、薮下医院を再度たずねた。

 「なんや、そんなことかいな。えーえー切ってまお、明日切ってまお、この保険証の名前通りでええやん。」

 何のことはない、慶太の不安は、医師の一笑に付されてしまった。

 翌日、病室には、「山下信夫」という名札が掲げられていた。言うまでもなく慶太自身のことである。手術用白衣に着替えながら、慶太の姉が、盲腸を手術したとき『恥ずかしかった』と話していたことを思い出した。一世一代の決心のときが迫っている。時すでに遅く、ノックの音が聞こえるが早いか、ベッドサイドに看護婦が突立ていた。

 『こいつが、俺の息子を触るんか。同じ見られるんやったら、もっと美人に見られたいわ。こいつ、ほんまに看護婦かいな。ブスもええとこやで。何食うとんねん、ぶくぷく豚みたいに肥えやがって。』

 「カミソリ入れますから…。」と、ステンレス皿と消毒用脱脂綿の後ろに隠し持ったカミソリを開いた。慶太は、やにわにパンツをずり降ろした。驚いたのは看護婦の方で、すぐさま顔を背けた。

 「どうとでもやってんかあー。どないや、俺の物は、エー」

 「そこまで剃らへん。メス入れるとこだけやぁ。はよう、しもうて!

 思い切ったことをしたわりには、看護婦が今にもこっちを振り向くのではないかと様子を窺いながら、慶太はパンツをすばやく引き戻した。

 沈黙が、病室を走った。

 看護婦の名前は、甲田愛子。願わくば『美人』で、という形容がふさわしい看護婦のなかにあって、「夕日に鬼瓦」究極のブスと評判譲。

──青春。それは白衣の天使に恋を夢見て憧れ、裏切られた盲腸の手術。「あわてものの早合点」も、青春グラフィティの愉快なワン・シーン。

 お気に召せば、また、では失礼。